スイスワインを愛した男ー森本純也ー
- TANPENS 編集室

- 7月2日
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2026年7月20日より第3回小さな小さな文学賞「スイスワイン文学賞~つたえたいおもい」の募集がはじまる。およそ2年ぶりに開催される小さな小さな文学賞を記念して2024年8月TANPENS第40号で掲載した特集記事を特別公開!
◆ 人生をかえたワイン
神戸にスイスワインに魅入られた男がいる。神戸市で唯一スイスワインを輸入販売している森本純也 (合同会社ヘルベティカ 代表)さんだ。今から30年前、スイスに出張した際、友人に「まあ飲んでみろ」と一本のワインを勧められた。そのワインは赤ワイン用のブドウで造った白ワインだった。今まで味わったことのないワインだった。
「ひとくちで心を奪われ、時が止まったような感覚でした」
森本さんはその時の様子をつい最近のことのように話す。日本に帰ってからもその衝撃が忘れられなかった。だがワインショップやデパートに行ってもスイスワインは売ってない。感銘を受けた白い赤ワインも売っていない。それもそのはずだ。スイスワインは自国内でほとんど消費され、総生産量のわずか1.3% しかスイス国外に出回らず、日本には0.1%しか入って来ない。
◆ スイスワイン
スイスは隠れたワイン王国だ。その歴史はフランスに並ぶ。スイスの人はワインを愛している。人口約857万人、九州と同じくらいの小さな国土で、26すべての州でワイン造りが行われている。年間生産量は1億リットル、1500以上のワイナリーがある。
それがどういうことか、日本酒とくらべるとわかりやすい。日本酒の酒蔵はスイスと同じくらい1400以上あると言われているが、人口比率に換算するとスイスは日本の10倍だ。(スイスは8人に一つのワイナリー、日本は85人に一つの酒蔵)。
「スイスワインの魅力はなんといっても美味しさなんですが、特筆すべきはスイスワインでしか味わえない、オンリーワンであることですね」
スイスワインにとりつかれた森本さんは、出張のたびに多くのワイナリーを訪れた。
森本さんがあるワイナリーのぶどうの収穫を手伝った日のことだ。収穫が終わり、ふるまい酒としてワインを飲んでいるとき、森本さんは突然思った。
「自分一人で楽しんでるんじゃなくて、みなに飲んでもらいたい」 それは天啓だった。
◆ すべてはじめてのこと
神戸に戻ってきた森本さんはスイスワイン専門の輸入販売会社「ヘルベティカ」を作った。だが今までサラリーマンだった彼は、会社の設立もはじめて、輸入の仕方も、ワイン業界のことも知らなかった。
すべては手探り状態だった。コンテナの問題。業界のルールの問題。たくさんの壁を乗り越えて森本さんはビジネスをスタートする。
だが本当の壁はここからだった。
スイスワインはあまりに希少で、多くの人がその存在を知らなかったのだ。はじめてなのは森本さんだけではない。酒屋も、飲食店も、そしてなにより消費者そのものが(熱心な愛好家をのぞき)スイスワインは未体験だった。はじめてのものは多くの人が二の足を踏んでしまう。既存のものとどうしても比べてしまう。
「一度飲んでもらえればわかるのに」
どうにかして自分が愛したスイスを、感動したスイスワインのことを知って欲しい、興味を持ってほしい。そう思った森本さんは語り部となった。
◆ 魅力を伝える
森本さんは精力的にスイスワインの魅力を発信しはじめた。スイスにまつわるコラムを「note」に掲載した。スイスの食の楽しみ方を知ってもらおうとCOOKPADにレシピを掲載。特別審査員にスイスワイン研究家の井上萬葡さん、歌舞伎役者の坂東彌十郎さんをむかえ、ワインと料理の「スイスワインペアリングコンテスト」を実施した。アートとワインをつなげる「ART meetsWINE」。スイス映画『ロール・ザ・ドラム!』(2024年10月4日公開)では、パンフレットにコラムを掲載。
「月に一度、最終金曜日にワインショップ併設美容室「BI.TO.WA」で「1 nitght Swiss Wine Bar」とコラボイベントをしている。(※現在は神戸市灘区水道筋の「MUSUBU堂」にて開催)驚くほどの活動量だ。どうしてここまでできるのだろう。「スイスへの情熱だけでやっています」と森本さんは笑う。
彼の言葉には力がある。それは自分の人生を変えた「感動」が根底にあるからだろう。だから少しずつではあるが彼の熱意はひろがっていく。
◆ 大統領のワイン
ある日、スイス大使館を訪れた森本さんは大統領に出会った。「スイスワインを日本で販売しているんだ」と言うと、なんと大統領自ら一本のワインを直接紹介された。「DIALOGO」。英語で「DIALOG」。日本語で「対話」だ。大統領は外交に赴くとき、このワインを手土産で持っていくのだという。各国の要人とこのワインをはさんでどんな「対話」を行うのだろう。想像が膨らむ。
「飲んでみますか?」
黄金色の美しい液体が注がれる。口に含むと、香りが体いっぱいに広がった。普段あまりワインを嗜まない筆者にも、それが上質で美味しいものだと一瞬でわかる。ワインの由来ともあいまって、豊かな時間がそこにはあった。これが森本さんが出会った「感動」のひとつなのだと思った。スイスワインには物語がある。
「ね、美味しいでしょ」
森本さんの挑戦は続く。



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