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切り絵で描く神戸の情景 ―民井達也さんの場合

  • 執筆者の写真: TANPENS 編集室
    TANPENS 編集室
  • 2025年5月28日
  • 読了時間: 4分

神戸の街並みを切り絵で表現し続ける民井達也さんへのインタビュー。バーテンダーとしての経験を活かしながら、独自の視点で街の魅力を切り取る作家の創作活動や、人との出会いを通じた作品づくりについて語っていただきました。


■ 飲酒室


 三宮に面白い人がいる。

 民井達也さん。トアロードのバー「飲酒室」のオーナーだ。今から「飲酒室行ってくる」というと、勇者のように見送られることがある。別に世界を救うわけでもそこに魔王がいるわけでもないのだけれど、ちょっとした覚悟がいることには間違いない。だってそのバーはあまりにも面白すぎて店の名前通り「飲酒」してしまいベロベロになってしまうことが多々あるからだ。

「神戸は面白い人でいっぱいです」

 自分のことを棚に上げて民井さんそう言った。

 民井さんは兵庫区の下町で生まれ。幼い頃から絵を描くことが大好きで、漫画家を夢見ていた。高校時代、自分の将来に不安を感じながらも、常に好奇心を持ち続けていた。

 彼はバーテンダーとして働き始める。はじめはハーバーランドで、そのあと三ノ宮のバー『フラットファイブ』で、様々な人生経験を持つ人々と出会う。深夜までお客と語り合ったりする中で、人生の面白さを学んでいった。その間もずっと民井さんは絵を描き続けていた。

 二七歳の時にとあるバーに勤めることになった。

 そのバーのことが民井さんは大好きだった。

「遊びの達人、夜の達人みたいなひとがたくさんいたんです。その店が閉めるとなったとき、ほんとうに残念で、独立するときに名前をいただいたんです」

 その店の名が「飲酒室」だった。民井さんはそういう神戸の面白い人たちの流れを継いでいる。


■ 切絵との出会い


 ある夜のことだ。

 仕事終わりに飲んでいると、そこのバーのマスターから一冊の画集を紹介される。成田一徹氏の切絵だった。その出会いが民井さんの人生をさらに豊かなものにした。

「衝撃でした」

 今まで木炭などでドローイングしてきた民井さんは、切絵の「引算」の美学に心を奪われる。

「切絵ってあるか、ないかだけなんで。描くところ、描かないところをどうするか。影のところは黒って決まっているし、引算なんですよね」

 切絵の面白さは「なにを残すか」というところにある。足算でどんどん書き込んでいくことはできない。それは民井さんの描こうとしているテーマにもなっている。

「残しておきたい神戸の情景を切絵にしているんです。三宮にはこんな人がこんなところにいるんやで。ああおもしろそうやな、行ってみたいな。そう思ってもらったらうれしいです」

 そういう想いが『神戸散歩 色々なモノクローム』という一冊の本になった。


■ B面の楽しさ


 神戸はお洒落なところだ。

 そう思っている人は多いだろう。だが民井さんは「A面が輝くのはB面があってこそ」だと言う。

 毎日誰かがどこかで、箸にも棒にもかからないような一日があって、でもそれはやっぱり物語で、その記憶が神戸という町の記憶となっていく。

「開発による街の変化には複雑な思いがあります。特に三宮駅周辺の再開発で失われていく古い建物や、高架下の独特の雰囲気など、切り絵で残しておきたかった風景がたくさんあります。サンプラザや昔ながらの商店街。神戸の記憶として大切な場所が次々と姿を変えていきます。これらの風景を切り絵として記録に残し、街の記憶を伝えていきたいと考えています。神戸のB面とも言える、裏通りや路地裏の風景も含めて、街の多様な表情を作品に残していきたいと思います」



 民井さんの個展を訪れる。一枚一枚の絵が、民井さんの見てきたもの感じてきたものをそのまま切り取ってあった。ああ、この人の見る神戸はなんて楽しそうなんだろう。自分も民井さんのようにもっと面白い人、面白い場所をみつけよう。そう思った。

「この楽しい時間がずっと続いたらいいのになって、そんなことだけ考えて生きています」と民井さんは最後にまた笑った。


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